増殖因子受容体をはじめとする細胞表面上の膜タンパク質は、ユビキチン化されることが目印となってリソソームへと輸送されて分解されることがわかってきています。駒田研究室では、ユビキチン化された膜タンパク質が選択的にリソソームへと輸送される選別輸送の分子機構を研究しています。さらにユビキチン化に拮抗する脱ユビキチン化による膜タンパク質分解の負の調節機構を研究しています。
増殖因子受容体の過剰発現は細胞の癌化を引き起こします。それ以外の細胞表面上の様々な膜タンパク質の発現レベルの異常も疾患につながることが知られています。私達は将来的に細胞表面タンパク質のユビキチン化/脱ユビキチン化に関わるタンパク質を分子標的とした疾患治療薬への応用展開を見据え、そのための土台となる基礎研究を行っています。
私達の研究はすぐに社会に役立つタイプのものではありませんが、「すべての応用研究は基礎研究の上に成り立っているんだ」という強い自負をもって研究に取り組んでいます。
キーワード:
ユビキチン化、脱ユビキチン化、増殖因子受容体、受容体ダウンレギュレーション、エンドサイトーシス、選別輸送、メンブレントラフィック
学生募集:
駒田研究室では意欲ある博士課程、修士課程の学生を大募集しています。興味をもたれた方は駒田まで、いつでも遠慮なく連絡ください(email: makomada[a]bio.titech.ac.jp; tel: 045-924-5703 or 5702)。
細胞表面上の増殖因子受容体は、増殖因子が結合することによって活性化され、細胞内に増殖シグナルを発信します。同時に、活性化された受容体はエンドサイトーシスにより速やかに細胞内に取り込まれ、まず初期エンドソームに輸送されます(図1)。増殖因子受容体は次にエンドソーム膜が内腔にくびり取られて生じる内部小胞に取り込まれます。このような多胞性エンドソームはmulti-vesicular body(MVB)あるいは後期エンドソームと呼ばれ、MVB/後期エンドソームがリソソームと膜融合することにより、増殖因子受容体はリソソーム内のプロテアーゼによって分解されます(図1、リソソーム経路)。このプロセスは受容体のダウンレギュレーションと呼ばれ、活性化された増殖因子受容体から増殖シグナルが出続けることによって細胞が過増殖することを防ぐための重要な細胞増殖の負の調節機構です。事実、受容体ダウンレギュレーションの破綻は細胞の異常増殖性疾患、すなわち癌につながることが知られています。
低密度リポタンパク質(low-density lipoprotein, LDL)受容体やトランスフェリン受容体など、栄養物の細胞内への取り込みを行う受容体も同じように細胞表面からエンドサイトーシスされて初期エンドソームに輸送されます。しかしこれらの受容体は増殖因子受容体と異なり、その後、細胞表面にリサイクルされます(図1、リサイクリング経路)。これらの受容体は増殖シグナルを発している受容体のように分解してしまう必要がないからです。
それでは、初期エンドソームは何を目印にしてリソソームに輸送する受容体と細胞表面にリサイクルする受容体を仕分けしているのでしょうか?その答えは受容体のユビキチン化です。ユビキチン化はプロテアソームでのタンパク質分解シグナルとして有名ですが、初期エンドソームでは受容体などの膜タンパク質のリソソームへの選別輸送シグナルとして機能しています。増殖因子受容体は活性化に伴ってユビキチン・リガーゼc-Cblによってユビキチン化されます(図1)。これがリソソームに運ばれるためのタグとなるわけです。マウスの癌ウィルスにはc-Cblの優性不能型変異体であるv-Cblを遺伝子内にコードしているものがあり、このウィルスが感染した細胞ではc-Cblの機能が阻害されて、活性化された増殖因子受容体がユビキチン化されなくなってしまいます。その結果、活性型受容体が細胞内に居続けることになり、細胞の過増殖が引き起こされて癌化へとつながります。この事実は、ユビキチン化を介した増殖因子受容体のダウンレギュレーションが細胞増殖の調節に極めて重要な役割を果たしていることを明確に示しています。これに対しLDLやトランスフェリンの受容体は通常ユビキチン化されず、デフォルト経路であると考えられているリサイクリング経路に入っていくわけです。
イントロダクションでユビキチン化がリソソームへの選別輸送シグナルであることを説明しましたが、私達の研究室では、「エンドソームは、どのようにしてユビキチン化された受容体とされていない受容体を仕分けているのだろうか?」という問題について研究しています。
私達は増殖因子で刺激した細胞において速やかにチロシン・リン酸化されるタンパク質Hrsを世界に先駆けて発見しました(Komada and Kitamura, Mol. Cell. Biol. 1995)。そしてHrsが細胞内で初期エンドソームに局在することを見出しました(Komada et al., J. Biol. Chem. 1997)。またHrsノックアウト・マウスを作製し、Hrsの欠損が胎性致死を引き起こすことを見出しました(Komada and Soriano, Genes Dev. 1999)。その後、HrsがSTAMというタンパク質とエンドソーム膜上でユビキチン結合性のタンパク質複合体を形成し、ユビキチン化された増殖因子受容体のユビキチンを認識することにより、そのリソソームへの選別因子として働くことを見出しました(図2、Mizuno et al., Mol. Biol. Cell 2003; Morino et al., Exp. Cell Res. 2004; Mizuno et al., J. Biochem. 2004; reviewed in 駒田, 現代医療 2004; Komada and Kitamura, J. Biochem. 2005)。ユビキチン化されない受容体はHrs-STAM複合体に認識されないために、リソソーム経路に入っていかないのです。
しかしながらエンドソームにおけるユビキチン化タンパク質の選別は、Hrs-STAM複合体の他にも数多くのタンパク質が関与する複雑なプロセスです(図2)。私達はこのプロセスに関わる新規タンパク質の同定と機能解析を通じて、その分子機構の全貌解明を目指しています。
Hrs-STAM複合体には2種類の脱ユビキチン化酵素UBPYとAMSHが相互作用します(図2)。脱ユビキチン化酵素とはその名の通り、ユビキチン化されたタンパク質からユビキチンを外す酵素の総称です。私達は、UBPYが初期エンドソーム上でHrs-STAMによって選別された上皮細胞増殖因子(epidermal growth factor, EGF)受容体を脱ユビキチン化し、選別輸送シグナルを外してリソソームへの輸送を抑制することにより、受容体ダウンレギュレーションを負に調節していることを見出しました(図3;Mizuno et al., Mol. Biol. Cell 2005; reviewed in 駒田 & 水野, 細胞工学 2006; Komada, Research Advances in Biological Chemistry 2007; Komada, Current Drug Discovery Technologies 2008)。また私達はもう1つの脱ユビキチン化酵素AMSHがクラスリン重鎖と結合し、クラスリン被覆によって初期エンドソームの膜上に繋ぎ止められていることも見出しています(Nakamura et al., Genes Cells 2006)。しかしながらAMSHの役割についてはまだよくわかっていません。
私達は、優性不能型変異体やsmall interference RNA(siRNA)を発現させてUBPYの機能を阻害した細胞において、初期エンドソームに様々な分子量のユビキチン化タンパク質が蓄積し、エンドソームの異常凝集を引き起こすことを見出しました(Mizuno et al., Traffic 2006; reviewed in 駒田 & 水野, 細胞工学 2006; Komada, Research Advances in Biological Chemistry 2007; Komada, Current Drug Discovery Technologies 2008)。この時エンドソームに蓄積するユビキチン化タンパク質は、本来UBPYによって脱ユビキチン化されるべきその基質であると予想されます。そこで質量分析法を用い、UBPYの機能阻害細胞に蓄積したユビキチン化タンパク質の網羅的な同定を行っています。
またこの手法を他の脱ユビキチン化酵素に応用し、基質タンパク質の同定を通してこれまで役割のわかっていない脱ユビキチン化酵素の機能を明らかにするという試みも始めています。
私達は、UBPYのSer-680のリン酸化依存的に14-3-3タンパク質がUBPYに結合すること、そしてその結合がUBPYの酵素活性を阻害することを見出しました(Mizuno et al., Exp. Cell Res. 2007)。さらに細胞分裂期(M期)においてSer-680が脱リン酸化されてUBPYから14-3-3タンパク質が解離し、その結果UBPYの酵素活性が上昇することを見出しました(Mizuno et al., Exp. Cell Res. 2007)。このことは、UBPYが細胞分裂に何らかの役割を果たしていることを示唆しています。そこでその役割が何であるのかについて解析を始めています。